千葉県を縦断する 80キロメートルの水路
「両総農業用水」は佐原を起点に、4市(佐原・八日市場・東金・茂原)4郡(香取・匝瑳・山武・長生)17町村にわたる、農林省所管の大規模な用排水事業です。
佐原から茂原まで延々と続く80キロメートルの水路は、上幅8.4m、底幅5.2m、水深2mのもので、途中は隧道や逆サイフォンなどで連結され、野山を貫いています。
起点の佐原第一揚水場からは、毎秒11.5立方メートルの水が送られます。
この用排水事業によって恩恵を受ける農業用地は、209.99平方キロメートルにのぼります。これは千葉県の水田面積の20%に及ぶものです。
この事業は、昭和15年(1940年)に九十九里地方を襲った大旱魃の再発を防ぐ目的で、翌16年に千葉県議会で可決された計画案が基となっています。
千葉県議会では満場一致でこの計画案を決議し予算をとりましたが、時の政府がなかなか事業を認めようとしませんでした。
事業経費が巨額であるのと、長年の歳月を要するのとの 二点が問題とされたからです。
政府がこの事業案を決議したのが、昭和18年になってからでした。
事業費は当初予算1,986万円でしたが、昭和30年には43億円に膨らみ、昭和40年には60億円に達する大規模な事業となりました。
地元では「両総農業用水」のことを略して「両総用水」と呼んでいます。
起点の佐原第一揚水場は私の家からも近いこともあり、その太いパイプを子供の頃から見て育ってきました。
送水は田植えの季節から始まります。
春から夏にかけては、水路を轟々と言う音をたてて水が流れていきます。
しかし、冬場は送水も止まり、いたずらっ子達の格好の遊び場となります。
私も水の止まった水路や隧道の中で遊んで、両親や先生からひどく叱られたことが何度もあります。
隧道には銘文が設置されています。ゲストブック 常連の KJOE さん によりますと、その数は佐原市内だけでも20ヶ所もあるそうです。
以下の表は KJOE さん から送っていただいた資料を基に、作成したものです。
KJOE さん 情報を有り難うございました。この場をお借りしましてお礼申し上げます。
なお、銘文は全て草書体で石に彫られています。
取付位置 | 銘 文 | 読 み 方 | 意 味 | 揮毫者/肩書き | |
1号 | 呑口 | 流通自由 | りゅうつうじゆう | 水が自由自在に流れる | 広川弘弾/農林大臣 |
吐口 | 天恵洽 | てんけいあまねし | 天の恵みが広く行きわたる | 西松三好/西松建設社長 | |
2号 | 呑口 | 水流灌田 | すいりゅうかんでん | 水の流れが、田にそそぐ | 貝原豊/両総用水工事課長 |
吐口 | 利沢万利 | りたくばんせい | 利益と恩沢が万世に続く | 友原繁/西松建設専務取締役 | |
3号 | 呑口 | 無量水 | むりょうのみず | 限りない水 | 井上勇/東京農地事務局課長 |
吐口 | 疎通千里 | そつうせんり | 水が千里も通じる | 小林光鎮/西松建設専務取締役 | |
4号 | 呑口 | 雲従龍 | くもはりゅうにしたがう | 龍は雲を従えて、天を行く | 寺田修平/両総用水庶務課長 |
吐口 | 天人成其功 | てんじんそのこうをなす | すぐれた人が功をなす | 西松嚀/西松建設東京支店長 | |
5号 | 呑口 | 備道全美 | みちはそなえればすべてうるわし | 道をつくれば、すべてうまくゆく | 柴田等/千葉県知事 |
吐口 | 灌漑富国 | かんがいくにをとます | 田に水を引くことは、国を富ます | 本宮三香/詩人 | |
6号 | 呑口 | 浸潤無天旱 | しんじゅんてんかんなし | 水が充分に行きわたり、日照りはない | 田村徳一郎/本省農地局課長 |
吐口 | 刀水潤両総 | とうすいりょうそうをうるおす | 利根の水が上総下総を潤す | 本宮三香/詩人 | |
7号 | 呑口 | 道通天地 | みちはてんちにつうず | 道は天地に通じている | 能勢剛/両総土地改良区理事長 |
吐口 | 豊穣 | ほうじょう | ものが豊かで多いこと | 藤田武雄/大成建設社長 | |
8号 | 呑口 | 渠成五穀蕃 | りょうなってごこくしげる | 水止めの梁ができて、五穀がしげる | 松野孝一/東京農地事務局長 |
吐口 | 五風十雨 | ごふうじゅうう | 五日に一度風が吹き、十日に一度雨が降る | 藤田武雄/大成建設社長 | |
9号 | 呑口 | 可使在山 | つかうべきはやまにあり | 山には宝がある | 萩原大介/東京農地事務局部長 |
吐口 | みのりの水 | みのりのみず | 第一土木株式会社 | ||
10号 | 呑口 | 帰去来合 | ききょらいごう | いざ帰りなん | 溝口三郎/衆議院議員 |
吐口 | 豊饒 | ほうじょう | 豊かに実ること | 田中清玄/三幸建設社長 | |
11号 | 呑口 | 水利冠天下 | すいりてんかにかんたり | 水の便利さは天下一である | 坂本斉一/佐原市長 |
吐口 | 豊泉洽達 | ほうせんあまねくたっす | 豊かな泉が広く行きわたる | 鹿島建設株式会社 | |
12号 | 呑口 | 以水為命 | みずをもっていのちとなす | 水は命と同じで大切である | 山根登一郎/東京農地事務局部長 |
吐口 | 饒流遍潤 | ぎょうりゅうへんじゅん | 豊かな流れが、ひろく潤す | 鹿島建設株式会社 | |
13号 | 呑口 | 恵沢灌万頃 | けいたくばんけいをうるほす | 恵みが全耕地を潤す | 石津庫之助/農地開発営団技師 |
吐口 | 源水混混 | げんすいこんこん | 源の水がこんこんと流れる | 神部満之助/間組社長 | |
14号 | 呑口 | 春風春水一時来 | しゅんぷうしゅんすいいちじにくる | 春の風と春の水が一時に来る | 山添利作/農林次官 |
吐口 | 恵沢無窮 | けいたんきわまりなし | 恵みに限りがない | 神部満之助/間組社長 | |
15号 | 呑口 | 文命水路 | ぶんめいのすいろ | 文明は文徳の孝子へ | 雨森常夫/京都農地事務局長 |
吐口 | 天恵滾滾 | てんけいこんこん | 天の恵みが、こんこんと流れる | 天野靖之助/三建工業 | |
16号 | 呑口 | 恵沢洽両総 | けいたくりょうそうにあまねし | 恵みが両総に広く行きわたる | 佐野憲次/農地局長 |
吐口 | 沢千里之野 | さわせんりのの | 農地が千里の野原である | 三井高公/三井建設社長 | |
17号 | 呑口 | 芳水恵地 | ほうすいちにめぐむ | おいしい水が地に恵む | 村上龍太郎/農地開発営団理事長 |
吐口 | 豊享予大 | ほうきょうよだい | 易の言葉で、天下泰平 | 酒井利雄/酒井建設社長 | |
18号 | 呑口 | 通百川 | ひゃくせんにつうず | たくさんの川に通じている | 吉川安次郎/東京農地事務局課長 |
吐口 | 玉水満渠 | ぎょくすいやなにみつ | おいしい水が梁に満たされる | 酒井利雄/酒井建設社長 | |
19号 | 呑口 | 如慈雨 | じうのごとし | ありがたい雨のようである | 十枝雄三/両総土地改良顧問 |
吐口 | 豊秋万古 | ほうしゅうばんこ | 豊かな秋が永久に続く | 酒井利雄/酒井建設社長 | |
20号 | 呑口 | 天長地久 | てんながくちひさし | 天地が永遠に続く | 瀬戸忠武/両総用水事務所長 |
吐口 | 尽削灌之利 | けずりてつくすこれをそそぐのり | 山を削り灌漑に尽くす | 熊谷太三郎/熊谷組社長 |
[水生植物園] [大利根博物館] [水郷] [神社と寺院] [ゲストブック]